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思い出したくないと言う彼女に、逃げたって何も解決しないだなんて偉そうな事を口にした。
だけど本当にそうだと思う。
どんな事でも、逃げるのは簡単だ。
でも逃げずに真実を知ることに意味があると俺は思う。
例えそれが知りたくない現実でも。
「……今回はもういい。ただ、次何かあったら絶対俺に言え。返事は?」
「……はい」
「じゃあ、携帯出せ」
「え……」
「早く」
強引に携帯を出させて、自分の携帯と赤外線通信を済ませる。
やっと俺の携帯に、彼女の番号が入った。
たったこんな事でも、また少し彼女に近付けた気がした。
「じゃあ、俺帰るわ」
言いたいことは言ったし、聞きたかったことは大体聞けた。
「おやすみ、絵麻」
俺の中ではもう格別な彼女の名前。
この名前を聞く度に、この名前を呼ぶ度に、俺は今よりもっと彼女に堕ちて行く。
もう二度と戻れない、深いところまで。
そんな気がした夜だった。
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