近付く距離

14/14
前へ
/32ページ
次へ
思い出したくないと言う彼女に、逃げたって何も解決しないだなんて偉そうな事を口にした。 だけど本当にそうだと思う。 どんな事でも、逃げるのは簡単だ。 でも逃げずに真実を知ることに意味があると俺は思う。 例えそれが知りたくない現実でも。 「……今回はもういい。ただ、次何かあったら絶対俺に言え。返事は?」 「……はい」 「じゃあ、携帯出せ」 「え……」 「早く」 強引に携帯を出させて、自分の携帯と赤外線通信を済ませる。 やっと俺の携帯に、彼女の番号が入った。 たったこんな事でも、また少し彼女に近付けた気がした。 「じゃあ、俺帰るわ」 言いたいことは言ったし、聞きたかったことは大体聞けた。 「おやすみ、絵麻」 俺の中ではもう格別な彼女の名前。 この名前を聞く度に、この名前を呼ぶ度に、俺は今よりもっと彼女に堕ちて行く。 もう二度と戻れない、深いところまで。 そんな気がした夜だった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

783人が本棚に入れています
本棚に追加