第8話 近付く距離

触れた唇

昼飯は社員食堂で済ませた俺は、夜は残業の後あの定食屋へ寄った。

一応アイツも残業していたらまた強引に誘おうと思ってシステム部に寄ったけれど、そう何度も偶然会えるわけはない。

「なんだ鳴海くん、今日は1人なの？」

「おばちゃん、口軽過ぎだから。仙堂に余計な事言っただろ」

「余計な事って失礼だねホントに。あの子、鳴海くんの彼女かい？」

「違う。会社の部下」

正確に言うと自分の部下ではない。
だけど今の俺とアイツの関係を言葉で示すなら、それしかない。

「いい子だったねあの子。あんなに美味しいって言ってもらえたら私も嬉しいわ」

「アイツは素直なんだよ」

裏表がない優しい性格。
この間ここで2人で初めて飯を食って思ったけど、彼女と食べる食事は、いつもの倍は美味しく感じた。

そして凄く穏やかな気持ちになれた。
きっと彼女が纏っている雰囲気そのものに、俺は癒されていたのかもしれない。