触れた唇

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「鳴海くんにはああいう子がお似合いだと思うよ。優しそうな感じが気に入ったわ」 「実際、優しいよ」 一緒にいても愚痴や人の噂話は一切しないし、俺に媚びてくることもない。 仕事の愚痴なら俺に言ってくれたっていいけど、彼女の人柄は少し一緒にいただけでわかるくらい穏やかで柔らかい。 俺とは真逆のタイプ。 「アイツといると調子が狂う。……いつもの自分じゃいられなくなりそうで」 「あら、いいことじゃない。いつもの澄ました顔の鳴海くんより、あの子といたときのあんたの顔の方が私は好きだわ」 おばちゃんに好きって言われても。 「今より何倍もいい顔してたよ。あの子、名前なんだっけ?」 「絵麻。今度また連れてくることあっても、仙堂に言うなよおばちゃん。アイツしつこいから」 「はいはい、言いませんよ」 彼女のために、彼女の心が少しでも軽くなるために……俺ができる事はないだろうか。
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