触れた唇

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「あの、鳴海さん……すみません。私何も考えなしにこんな時間に呼び出しちゃって」 「何が」 「だから、こんな時間に私とご飯食べてたら噂になるかもしれないし……」 むしろ、噂になればいい。 そうすれば優しい彼女のことだから、俺のことを拒めなくなる。 「別にいいけど」 「え?」 「お前さ、噂なんていちいち気にしてどうすんだよ。そんなビクビクしてると逆に怪しまれるぞ」 「でも……」 「堂々としてろ。別に飯食ってるだけなんだから」 「……はい」 俺の言葉に納得した様子の彼女。 こういう素直な反応は、何度見ても俺をいい気分にさせる。 すぐ隣で手を伸ばせば簡単に触れられる距離にいる彼女に、思わず触れたくなる。 けど、なんとか耐えて彼女をからかいながら食事を済ませた。 「ちょっとジジィのとこ行ってくるから待ってて」 彼女にそう言い、厨房の中に入った。 たまに入るけど、いつ見てもゴチャゴチャした厨房。 でも出てくる食事はどれも驚くほど旨い。
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