初めて見せた涙

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彼女を背後から襲おうとしていたのは、見たことのない男だった。 俺に気づいた男は、手に持っていたナイフを投げ捨て階段を駆け降りて行った。 逃がすかよ。 「仙堂追え!」 「了解」 下にいた仙堂が車から飛び出して男を追いかけて行く。 仙堂の身体能力はかなり高い。 多分アイツなら、簡単に捕まえてくれるはずだ。 彼女を襲った犯人は、仙堂に任せればいい。 だけど今、俺の腕の中で震える彼女のことは、誰にも任せたくない。 「……もう大丈夫だ。安心しろ」 震える彼女を力強く抱きしめて言った。 彼女は声をあげて、俺の体にしがみついて泣いた。 初めて見た、彼女の涙。 俺の前で堪えることなく涙を流す彼女を見て、少し嬉しいと思ってしまう。 こんなときでさえ、簡単に彼女は俺の心を動かす。 あと少し来るのが遅かったらと思うと、心の底からぞっとした。 本当に間に合ってよかった。
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