664人が本棚に入れています
本棚に追加
その人は、本当に突然私の目の前に現れた。
5月下旬の晴れた日の午後。
いつも通り、私と雪ちゃんは受付で来客の対応や電話応対に追われていた。
本当にいつもと何も変わらない日だった。
……あの人が来るまでは。
お昼休憩から戻り午後の業務が始まる。
午後からの来客のアポイントの表をチェックしていたときだった。
「あの……」
1人の小柄で可愛らしい女性が私と雪ちゃんに声をかけてきた。
雪ちゃんがすぐに対応をする。
「あの、こちらに、鳴海タケルっていう人いますか……?」
思いがけず鳴海さんの名前が出てきて、顔が強張ってしまった。
「失礼ですが、お客様、本日来社のアポイントは取られていますでしょうか」
雪ちゃんが表情を変えずに、優しい口調でその女性に問いかける。
「いえ、約束はしていないんですけど……」
今までこんな風に鳴海さんを訪ねてくる人はいなかった。
何故か胸騒ぎがする。
最初のコメントを投稿しよう!