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「鳴海くん、久し振り」
明らかに仙堂さんを見る目とは違う、香那さんの表情。
見たくなんかないのに、視線を外せない。
『香那』
鳴海さんの口から自然と出た彼女の名前が、胸に突き刺さる。
「なんでここに?」
「急にごめんね、この近くで打ち合わせがあるからちょっと寄ってみたの。鳴海くんがここで働いてるって聞いたから……」
「香那ちゃん、先週日本に帰ってきたんだって。なぁタケル、せっかくだし今日飲みに行こうぜ!もちろん香那ちゃんも一緒にさ」
仙堂さん……お願いだから、余計な提案しないで下さい。
「私は今日仕事のあとなら空いてるけど」
「よしっ決まり!タケルも行けるだろ」
そのとき、一瞬だけ鳴海さんが私を見て視線が合った。
私は嫌な女だ。
自分から好きだなんて言う勇気もないくせに、他の女性と飲みに行かないでほしいと思ってしまう。
断ってほしいと願ってしまう。
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