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『先輩』
彼女の口からその言葉が出る度に、本当は内心かなりイラついていた。
システム部の増渕。
直接仕事で関わった事はないけれど、噂で何度かその名前を耳にした事はある。
文句なくシステム部ではNo.1の実力で、かなり仕事が出来るヤツだと、まさかそんなヤツが彼女の教育係だったなんて知らなかった。
俺は1年前のあの日、エレベーターで出会う前の彼女の事は何も知らない。
彼女が増渕と、俺のことでケンカした日。
悲しい顔をして帰ってきたアイツの顔を見て、嫌という程痛感させられた。
本当は、ずっとケンカしたままでいいけど。
その本音は一応伏せた。
すぐに彼女の体から他の男といた痕跡を消したくて、強引にシャワーを浴びせた。
タバコの匂いなんかでこんなにも嫉妬してしまう自分に呆れる。
本当に目の前のコイツの存在だけが、いつも俺をおかしくする。
「名前で呼んで」
激しいキスに甘い声を漏らしながら必死に応える彼女に囁いた。
「……タケル、さん……」
その瞬間、胸が一気に騒いだ。
それは彼女を初めて見たときに感じた鼓動と同じだった。
今までにも、『タケル』と俺を呼ぶ女は何人もいた。
なのに、どうしてコイツが言うと、こんなにも違うんだろう。
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