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「もう1回」
「……タケルさん……好きです……」
とろけそうなくらいの甘い表情で、彼女が俺を見つめて呟く。
もう、その存在自体が愛しくて。
その言葉を頭の中で何度も繰り返しながら、俺はその甘い存在に堕ちていった。
その翌日、朝起きると彼女はいつものように俺より先に起きてキッチンで朝食を作っていた。
「あ、おはようございます鳴海さん」
その表情は、昨日帰ってきたときのような悲しい表情ではなく、俺が見る限りはいつもの笑顔に戻っていた。
「もうすぐ出来るんで座ってて下さい」
「昨日は何度も名前で呼んでたくせに、今日はもう呼ばないんだな」
俺がそう言うと、素直な彼女の顔はみるみると赤くなっていく。
「だ、だって昨日は鳴海さんが……」
「今日も呼んでほしいんだけど」
わかってる。
コイツが名前を呼ぶのに慣れていない事くらい。
わかっているのに苛めたくなる。
俺はやっぱりコイツに関してだけは、小学生並みのガキだな。
「昨日みたいに、タケルって呼んでみ」
「……朝からそんな高度な意地悪言わないで下さい」
昨日、俺以外の男の事で頭が一杯だった彼女へのささやかな仕返し。
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