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それから数日は、俺も仕事が多忙で増渕の事なんて完全に頭から消えていた。
夜遅くに帰宅した日でも、必ず彼女は俺が帰ってくるまで起きてくれていた。
『お帰りなさい』と笑顔で声をかけてくれる。
そんな些細な事が、毎日の俺の癒やしでもあり幸せでもあった。
仕事の疲れも、彼女の顔を見るだけで簡単に吹き飛ぶ。
彼女と一緒に暮らし始めてから、自分もそんな単純な男なんだと知った。
だけどそれと同時に、自分の独占欲や執着心の強さにも気付く。
「お前、よく飽きないよな~毎日一緒にいて」
「は?」
仕事の昼休憩中。
あまり時間がなく社員食堂で昼飯を食べていたとき、隣にいた仙堂に突然言われた言葉。
「いや、だってさ。普通同棲なんて始めたら、好きなんて感情は落ち着いていくもんでしょ」
「お前と一緒にすんな」
コイツは彼女と同棲を始めてからどうやら冷めてきたらしく、今倦怠期中らしい。
「俺だって好きなんだよちゃんと彼女の事は。けどさぁ、毎日一緒にいたらさ、なんつーか、刺激が欲しくなるっていうか、飽きてきたっていうか……」
「刺激なんていらねぇだろ」
刺激なんて求めていない。
今の穏やかな毎日がずっと続いてくれれば、それでいい。
彼女の笑顔が毎日見れるなら、それだけでいい。
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