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「お前さ、もしかして……」
そのときタケルさんの仕事用の携帯がピリリ……と音を鳴らした。
タケルさんが一旦私の傍から離れて電話の応対をしている最中に私は何度か深呼吸を繰り返す。
『結婚して何年か経ったら、ドキドキなんかしなくなる』
前にどこかにご飯を食べに行ったときに、隣に座っていた女性2人が話していた会話。
私はそのとき、そういうものなのかなぁ、なんて漠然と思いながらちゃっかり盗み聞きしていた。
実際、ドキドキしなくなるなんて感覚、いまだに私はわからない。
ていうか、きっと一生わからないし、わからなくていい。
「あ……もう大丈夫なんですか?」
「あぁ。大した事じゃなかったから」
そう言ってタケルさんは、また私のすぐ隣に座った。
「……タケルさん、例の美女に手出されないようにくれぐれも気をつけて下さいね」
「まだ心配してんの?」
「当たり前です。だって、結婚してたってそんなの気にしない女性なんていくらでも……」
そこまで口にしたところで、私の言葉は中断された。
タケルさんの唇が、私の唇を制したから。
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