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「ううん紅茶も大丈夫。今日、麦茶入れて持ってきたんだ」
ノンカフェインの麦茶を入れたタンブラーをバッグから取り出し、デスクの上に置いた。
「タンブラー持参ですか?珍しいですね……先輩、急にエコに目覚めたんですか?」
「う、うんそうなの!ちょっと新しいタンブラー買ったから、使ってみたくて」
自分でも意味不明な事を言っているって、わかってる。
ごめんね沙耶ちゃん……。
そのとき、システム部の狭い会議室から部長が顔を覗かせた。
「伊咲!ちょっと来い」
「え……」
こうやって部長に呼ばれて、良い事が待っていた試しがない。
大体は、誰もやりたくなさそうな仕事を押しつけられたり。
でも来客中なのに、どうして私を呼ぶんだろう?
もう、とにかく嫌なイメージばかり想像しながら恐る恐る会議室へ近付き、扉を開けた。
「失礼します……」
一応一礼して、パッと顔を上げると。
部長と向かい合わせに座っていた人は、懐かしくて仕方ない顔だった。
「久し振り。元気だった?伊咲……じゃない、もう鳴海だったか」
そう言って彼は目を細めて笑った。
「増渕先輩!」
まさかもう一度こうして会えるなんて、思わなかった。
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