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『結婚なんかしなければ良かった』
いつも俺が周りのヤツらにこぼすお決まりの愚痴。
俺だってこんな事、本当は言いたいわけじゃない。
彼女とはいつだって、出逢った頃のような気持ちで暮らしていきたかった。
そのはずだったのに。
気が付いたときには、もう顔を合わせばケンカの毎日で。
……彼女の心の底からの笑顔を見たのは、もうどれくらい前だっただろう。
「タケルさん、コーヒーお代わりしますか?」
「あぁ。ありがとう」
俺の目の前では、いつものようにタケルと伊咲ちゃんが目と目を合わせて会話をしている。
……すげー甘ったるい空気のこの家は、正直今の俺には居心地が悪い。
「仙堂さんはビールまだ冷蔵庫にありますけど、持ってきましょうか?」
「……伊咲ちゃん、俺梅酒のお湯割りでお願い」
そう甘えたように伊咲ちゃんにおねだりすると、容赦なくタケルに頭を叩かれた。
「絵麻を使うなっていつも言ってんだろ。絵麻、作ってやらなくていいから」
「え、でも……」
「わかったよ自分でやればいいんだろー。伊咲ちゃんは座ってな」
伊咲ちゃんは現在タケルとの第一子を妊娠中。
最近やっと安定期に入ったらしく、俺も妊娠の事をタケルから聞かされたのはほんの数日前だった。
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