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エレベーターに乗り込みブツブツ小声で文句を言っていると、ついさっきまで笑っていた彼女の表情が突然険しいものに変わった。
「どうした?」
「うん……ちょっとやっぱり具合悪くて」
そう言って彼女は片手を口元に当てた。
そういえば今日は会社の飲み会で気分が悪くなって、あの男に家まで送ってもらったって言ってたな。
あの男の事を警戒し過ぎて、彼女の体調の事なんてすっかり忘れていた。
「何だよ大丈夫か?酒そんな飲めないくせに……無理やり飲まされたのかよ」
結衣はあまり酒に強いタイプではない。
飲めないわけではないが、ビール1本で顔が真っ赤になってしまう体質で。
だから普段から、家で俺の晩酌にたまに付き合う事はあっても、顔が赤くなるのが恥ずかしいからと言って外で飲む事はほとんどなかった。
「飲めないなら飲めないって断れよ」
「違うの。……お酒は1滴も飲んでない」
「え?」
そう言われてみれば、確かにこんなに間近にいるのに酒の匂いは一切しない。
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