番外編④precious days-2

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「どうした?」 「え?あ……ちょっと、いろいろ考えちゃって」 私はソファーでくつろいでいたタケルさんの傍に近寄り、ぼんやりと今考えていた事を素直に告げてみた。 「カケル、いろいろ我慢してたりするのかなぁと思って」 「我慢?」 「子供の頃、私も両親が共働きだったんで保育園でほとんど過ごしてたんですけど……やっぱり子供ながらに寂しいって思っちゃったときもあったんで」 父も母も多忙だったから、お迎えはいつもクラスの中で1番最後だった。 甘えん坊なくせに甘え下手な私は、『もっと早く迎えに来てほしい』の一言が言えなかった。 母が走って私を迎えに来てくれる音を、いつも耳を澄まして聞いていた。 あの音が聞こえるだけで、ほっと嬉しくなった記憶。 『絵麻、遅くなってごめんね!』 そう言って私をいつも思いっきり抱きしめてくれた母の温もりが凄く好きだった。 母の顔を見た途端、寂しいなんて思いはきっと消えていた。 もう昔の事なのに。 小学校に上がる前の事なのに。 子供の頃の記憶は、意外と忘れていなかったりする。
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