半分

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半分

「杏奈ちゃん。おはようー! 」 森之宮さんがビルの入り口で私を待っている。 「おはようございます。 昨日は送ってもらってありがとうございました」 「これからもいつでも送るよ」 森之宮さんと目が合うと、くりっとした大きな瞳が優しげに私を見ていた。 昨日の契約獲得、転勤してきた日に契約が取れるなんて、森之宮さんはラッキーな人だと思っていたけれど、数日森之宮さんを見ていて、ラッキーではなく実力だと気付いた。 軽そうな話し方も、一度仕事の話を始めると、やり手の営業マンとして、お客様をぐいぐい引き込んで契約まで持ち込んでいく。 「私ももっと契約が取れるようになりたい」と伝えると、森之宮さんは時間がある時には、私の企業周りに同行してくれ、契約獲得のイロハを教えてくれた。 森之宮さんのおかげで、ノルマをこなす事しか考えていなかった私が、さらに契約を取るために前向きに頑張るようになった。 別の保険会社と競合しているお客様に会う時は、森之宮さんが同行してくれ、きっちり契約を取れるようになった。 仕事が面白くなると、1人の時も不思議なくらい契約が取れ、月間上位に送られる賞を森之宮さんと一緒に3ヶ月連続で獲得!森之宮さんと出会ってから、奇跡がどんどん起きている。 「杏奈ちゃん、 付き合って欲しいんだけど」 森之宮さんとの出会いから4ヶ月が過ぎた時、森之宮さんに告白された。 4ヶ月間、何度も話す機会があったのに彼氏がいる事を言っていなかった。 黙ってしまった私を、不安げな瞳で見ている森之宮さん。 「私、彼氏がいて……」 「そっか。 杏奈ちゃんなら彼氏がいて当たり前だよね。 残念。 もしいつか彼氏と別れたら、俺の事を考えてみて欲しい。 って、縁起でもない事を言ってごめん」 森之宮さんはそう言うと、さっとその場から離れていった。 それからも、森之宮さんは今までと変わらず私に接してくれている。 土日、水曜日の夜は、相変わらずしんちゃんとのデート。 水族館に映画、今までなら楽しめていたのに、どこか冷めている私がいる。 しんちゃんと一緒にいても、心の半分を森之宮さんが占めているせい。 もうこれ以上隠せない。 しんちゃんに触られている時さえ、森之宮さんの事が浮かぶ。 居酒屋で飲んだ後、しんちゃんの家に行った。 キスされた後、しんちゃんが私の服に手をかけようとした時、しんちゃんの手を遮った。
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