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「ん?」
後続車のライトがガードレールに反射したのかと思ったものの、その白い物体は、ずっとこの車と並走しているのか、一向に消えることはない。
チラチラと視界に入る度に気になって、運転に集中出来ない。
小動物がガードレールの上を走っているのかとも思ったが、そんなにスピードが出ていないとはいえ、車の速さにはついてこられない筈。
もしかしたら夜行性の鳥が低空飛行しているのかもしれないと思ったが、助手席に座っていた友人の叫び声によって、その予想は裏切られた。
「う、うわぁっ! なんだ、あのババァッ!」
「は?」
彼の叫び声に思わず、視線をズラす。
すると、ガードレールの上を真っ白な婆が――――白装束に白髪の婆が走っているではないか。
「な、なんだありゃぁぁぁっ!」
窓なんか閉め切っているのだから、外にはこちらの声など聞こえない筈なのに、何故か、婆は皺くちゃな顔をこちらに向けると、ニンマリとした余裕の笑みを見せた。
レースではなく、ツーリング感覚のドリフトなので時速は40~50キロ程度(もしかしたらもっと出ていたのかもしれない)
車の速度としては、それほどスピードは出してはいない。
けれど、人がそのスピードで走れるわけがない。
自分の目を疑ったが、すぐ後ろについてきている車がパッシングしてくる。
バックミラーにチラリと視線を向けるが、後続車に乗っている人の表情までは見えない。
けれど、この様子だと、彼らにもこの婆が見えているのだろう。
「な、なんなんだよ。やっぱ、ここ。でるんじゃねぇか!」
「うるせぇよ! 別に呪われているわけでもねぇし。がちゃがちゃ騒ぐなっ! 事故りてえのかよっ! それじゃぁ、婆の思うツボだぞっ」
助手席で半泣きになる友人を怒鳴りつける。
とはいえ、いつ何時、婆がこっちに襲いかかってくるかもわからない。
むしろ、このまま並走し、着物の裾をまくって筋張った太腿を曝け出している婆の姿を見ていたら、こっちの気が狂いそうだ。
今のスピードよりも、ほんの少しでも速くなれば、婆はついて来れないだろう。
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