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年に数回、夏の思い出の少女に私は会いに行く。
といっても、
直接血縁のあるお姉さんやお嬢さんもいれば
まったく血の繋がらないただの縁者としての少女もいる。
彼女たちは皆一様に夏の思い出を楽しそうに話す。
それを聞くのが、私は好きだった。
家の畑に泥棒に入った年上の少年を見逃す話は、その後の恋物語のエピローグだったんだろう頬をゆるませ照れながら話すお嬢さん。
幼い妹をおぶって布おむつを洗い、いくら必死に擦って洗っても落ちないうんちの黄色いシミが石鹸を流しきらずに軽く絞って太陽の下で干すと真っ白になっていくのが不思議だったと愉快に話す少女。
それに同意するように、私の中で「あれは不思議よねぇ」と頷くお姉さんは、戦前に裕福な地主の嫡男に嫁ぎ、戦火の苛烈さに夫も亡くしながらも残った幼い義弟妹と自分の子を必死に守りながら生き抜いたひとだった。
私が小学校低学年の頃、学校の帰り道にあるそのお姉さんの居る祖母の実家に寄り道してほんの五分くらいだけどお姉さんとお喋りするのが好きだった。
皺くちゃの手で冷たいお茶とお菓子を出してくれるのも目当てだった。
今はもうない、靴のまま入ってもいい土間の台所で二人だけでお喋りするのは秘密みたいで特別みたいでとても不思議で好きだった。
…そういえば、祖母がお姉さんを「かあさん」と呼んでいることを疑問におもって聞いたら「あたしの可愛い子だからそれでいいんだ」といって私が学校で習ったことと違っていて頭の中ををこんがらわせた。
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