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「何の研究?」
「今はケモミー君の開発さ」
君もぶつかっただろう?というそれは忘れもしない、俺の身体に痛みと絶望を刻んだ忌々しい機械。
…だったのだが。
「ケモミー君は、所謂空中飛行型移動マシンなのさ。完成すれば、足の不自由な人がわざわざ車椅子を押して貰わなくても良くなる。自分で車輪を回す労力も省けるしね」
聞く限りでは凶器とは縁遠い、幸福をもたらす機械のようだった。
楽しそうに語る彼女は普段の気の抜けた声音でも、あの特有の笑い方でもなく。
新しい遊びを覚えた子供みたいに、夢中になってまくしたてる。
「それに個人での海外旅行も夢じゃない。飛行機代に大金を支払わなくても、ケモミー君で自由にどこでも行けるのさ」
「いや、ムリだろ。国境ってもんがあるんだから」
「そんなもの無くしてしまえば良いのさ」
なんてことはない、という風に彼女は笑う。
無邪気さがそのまま形になったみたいな、そんな笑い方。
「国境なんてものがあるから争いが起こるのさ。我が物面を振り翳す面々に憤りすら感じるよ。この世界は、」
「もっと自由だから」
続く言葉を遮って、放った一言に彼女は嬉しそうに目を眇める。
不安なんだ。
俺とはまるで違う彼女が。俺の間違いを映しているみたいで。
だから。
「俺にも、手伝わせてよ」
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