2章 脱ぎ捨てた殻

4/5
前へ
/23ページ
次へ
「何の研究?」 「今はケモミー君の開発さ」 君もぶつかっただろう?というそれは忘れもしない、俺の身体に痛みと絶望を刻んだ忌々しい機械。 …だったのだが。 「ケモミー君は、所謂空中飛行型移動マシンなのさ。完成すれば、足の不自由な人がわざわざ車椅子を押して貰わなくても良くなる。自分で車輪を回す労力も省けるしね」 聞く限りでは凶器とは縁遠い、幸福をもたらす機械のようだった。 楽しそうに語る彼女は普段の気の抜けた声音でも、あの特有の笑い方でもなく。 新しい遊びを覚えた子供みたいに、夢中になってまくしたてる。 「それに個人での海外旅行も夢じゃない。飛行機代に大金を支払わなくても、ケモミー君で自由にどこでも行けるのさ」 「いや、ムリだろ。国境ってもんがあるんだから」 「そんなもの無くしてしまえば良いのさ」 なんてことはない、という風に彼女は笑う。 無邪気さがそのまま形になったみたいな、そんな笑い方。 「国境なんてものがあるから争いが起こるのさ。我が物面を振り翳す面々に憤りすら感じるよ。この世界は、」 「もっと自由だから」 続く言葉を遮って、放った一言に彼女は嬉しそうに目を眇める。 不安なんだ。 俺とはまるで違う彼女が。俺の間違いを映しているみたいで。 だから。 「俺にも、手伝わせてよ」  
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加