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「そんな大層なものじゃなくていいのさ。いつかずっとずっと先、私という存在が溶けてなくなった世界で、誰かが、ふと。そういえばあんなやつがいた…って、振り返って笑ってくれる。そんな価値が欲しいのさ」
「価値?」
「そう。私という人間の付加価値さ。――少年には、まだ難しかったかな」
灰色の瞳が、困ったように垂れて。すぐにいつもの底知れない色に戻る。
垣間見た彼女の内側。
俺とは真逆の心根を、寂しく思う。
俺にはまだ分からない。
誰かの記憶になんて残りたくない、生きる理由はまだ見つからない。
彼女への依存だけでできている俺には、自分の価値なんか考えられなかった。
けれどもっとずっと深く、彼女は俺を突き落とした。
「少年。私はもう少しで、ここを離れるよ」
「は…?だって、研究は、ケモミー君は」
「だからそれまでにケモミー君は完成させるさ。急がないとね」
依存して、執着して、拘泥したところで突き放す。
意地悪で、不平等が好きで、ろくでなしな神が宿るこの世界の、最も理不尽なところ。
それがまた、俺の目の前に立ちはだかる。
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