3章 霞んだ心の向こう側

3/4
前へ
/23ページ
次へ
「そんな大層なものじゃなくていいのさ。いつかずっとずっと先、私という存在が溶けてなくなった世界で、誰かが、ふと。そういえばあんなやつがいた…って、振り返って笑ってくれる。そんな価値が欲しいのさ」 「価値?」 「そう。私という人間の付加価値さ。――少年には、まだ難しかったかな」 灰色の瞳が、困ったように垂れて。すぐにいつもの底知れない色に戻る。 垣間見た彼女の内側。 俺とは真逆の心根を、寂しく思う。 俺にはまだ分からない。 誰かの記憶になんて残りたくない、生きる理由はまだ見つからない。 彼女への依存だけでできている俺には、自分の価値なんか考えられなかった。 けれどもっとずっと深く、彼女は俺を突き落とした。 「少年。私はもう少しで、ここを離れるよ」 「は…?だって、研究は、ケモミー君は」 「だからそれまでにケモミー君は完成させるさ。急がないとね」 依存して、執着して、拘泥したところで突き放す。 意地悪で、不平等が好きで、ろくでなしな神が宿るこの世界の、最も理不尽なところ。 それがまた、俺の目の前に立ちはだかる。  
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加