3章 霞んだ心の向こう側

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ケモミー君が完成してから、少しして。 宣言通り、彼女は俺の前から消えた。 何も言わず、何事も無かったかのように。 空っぽの地下室だけがそこにはあった。 「んだよ…」 残されていたのは苦悩と時間をつぎ込まれ完成したケモミー君だけ。 もの言わぬその機械を見ていると、名も知らぬまま去って行った彼女のことを思い出すから。 あれだけ入り浸っていた地下室に近付くことは、なくなった。 何かメモでも残されていないかと家中を捜索していると、リビングのタンスから彼女名義の通帳と印鑑が出てきた。 最終記帳は昨日、結構な大金が下ろされている。 それよりも驚くべきは彼女の財力だった。 こんなこじんまりした質素な家に住んでいたのにも関わらず、印字された桁数は8にも及ぶ。 通帳はほかにも3つほど見つかって、そのどれもが莫大な金額。 一体どんな仕事をしていたのかと疑った。 考えてみれば、知らないことだらけ。 日本人離れした容姿の彼女の国籍も、名前も、過去も。 どうしてもっと聞いておかなかったのか。研究にばかり没頭していた自分を殴りたい。 いなくなってからこんなことを思うなんて、相変わらず俺は惨めで、滑稽で。 嘲って笑ってみても、もう俺を撥ね飛ばすやつはいないのに。  
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