1章 淀んだ心に繋がる手を

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生きている感覚がない。 そう思い始めたのはいつからだったろう。 一度考え始めたら容易には消え去ってくれないその想いは、やがて。 俺の心を蝕んで、ボロボロにぐちゃぐちゃに、捏ね回してかき乱して。 全てを捨てる覚悟へと変えていった。 人との関わりを絶った俺はきっと、誰よりも記憶に残らず消えていく。 世間で毎日のように報道される『誰か』の死。 その一つに並べ立てられるだけ。 遠い場所で自分の知らない誰かが死んだことを、悼む人なんていやしない。 一週間前に起こった〇〇の被害者、と言われてすぐに名前を出せる人間がこの世界に一体何人いる。 とりわけ酷い事件や、幼い子供に焦点が向けられない限り。人間の都合の良い頭からはいとも簡単に抜けていく。 3日もあれば、忘れられる。 この世界の、ありとあらゆる記憶から。 降り注ぐ星空の下、線路の真ん中に投げ出した身体に虚ろに開いた2つの穴で、ぼんやりと。 俺の存在を抹消せんと迫りくる凶器のカタチを、仰ぎ見た。 こんなものに轢かれたら、本当に、肉片一つ残りやしないだろう。 それを心底嬉しく思って、目を閉じて。 真っ暗な闇の中、訪れる安寧を待ち望む。 直後に感じた衝撃は、思ったより強くて、長くて。 何より、痛かった。  
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