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「そういえば少年」
「まだ何かあんのかよ…」
なぜか手伝わされているケモミー君の運び出しで、近所から拝借した台車を押しつつ目の前のボサボサの髪を睨みつけた。
「君は何で自殺しようとしたのさ?」
「…生きてる理由がないから」
色を失ったような、灰色の瞳が一瞬揺らいだ気がした。
けれど何かを言うことはなく。静かに続く言葉を待っている。
それがいけなかったのかもしれない。
話しやすい環境に浸されることで、まるで話すことを誘導されたように、いつの間にか。
歪んだ心を吐き出してしまっていた。
「帰る場所なんかない。頼るあてもない。…俺は何も持ってない」
――帰りたい場所はない。
頼りたい人間はいなくなった。
持っていたはずのものはもうこの手には残っていない。
ほんの少しずつ違う言葉が心と頭の中で奔走する。
どちらが真意なのだろう。誤魔化して、ひた隠しにしている内に分からなくなってきた。
どちらにせよ、後悔はしていない。
死ぬことにも、今まで生きていたことにも。
だって。
「俺が世界を捨てたんだ」
――世界が俺を捨てたんだ。
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