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ガキが何を言っているんだと、怒られるだろうか。
それともバカげた話だと笑い飛ばされるだろうか。
こんなことを他人に話したのは初めてで、打ち明けてしまってから窺うのは名も知らぬ彼女の反応。
けれど、危惧したそれは拍子抜けするくらいあっさりしていて、奇想天外だった。
「じゃ、ウチに来なよ、しょーねん」
「は?」
「帰る場所がないなら寝食くらい提供するって話さ。ケガさせたお詫びと思って遠慮なく受け取るといいよ」
鶯色に近い、飛び抜けて不思議な色をしたぐしゃぐしゃの髪が躍る。
捻じ曲がった思想を肯定することも、否定することも、まして、揶揄することもなく。
ただ、もう何度も見た独特の笑い方で。
にゃはっと、受け流した。
否定されることを望んでいた訳じゃない。
引き留めて欲しかった訳じゃない。
なのに、何も言われなかったことがなぜか心苦しくて、居心地が悪くて。
バカなことを、と愚弄された方がきっとマシだった。
何も知らないクセにと、反発できた方が気が楽だった。
俺が見捨てた汚い『大人』は皆一様に、『あるべき理想』を押し付けた。
綺麗事の正しさを説くだけの、泥で押し固められた中身のない人間の群れの中に。
彼女の姿がなかったことが、これほどに空気を潰して、息を奪って。
相対した彼女は、そんなこと微塵も気にせず。
気ままに笑っているだけだった。
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