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孤独を喰らう悪魔は飢えを祈る
「見て……あの子……」
道行く私の背後でそんな囁きが聞こえてくる。悪意のない、忌避の込められたそんな声にももう慣れてしまった。クロークに隠された私の躰で、唯一肌が露出する貌を見て、彼女らは声を潜めたのだろう。
私はフードを目深に被り、街の大通りから横道に入った。
薄暗い路地裏を進む。
「どうしたんだ? ソノラ」
壁伝いに進む私の中で、ザザが語り掛けてきた。貌の左半分を覆った痣が疼く。
「……何でもない」
私は右半分の自分の貌を僅かに顰め、そう答えた。ザザはそれ以上何も言ってこない。
旅の身である私達は、山や谷を越えて、ようやくこの街に辿り着いた。久しぶりに寝台を味わえると安堵していたのだけれど、自分の置かれた身の上を考えると、迂闊に人前には出られないことに気づいた。
さっきの心無い囁きを聞いて、私は改めて自分の異様さを身に染みて感じた。
「ここでいいんじゃねえのか? 誰も使ってなさそうだ」
再びザザが話し掛けてきたのは、一軒の宿屋の前を通った時だった。見ると、いつ崩れてもおかしくなさそうな店構えの宿屋だった。
確かに、ここなら客はいないだろう。
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