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しかし、そう思うとなおさら、自分が世界でたった一人なんだ、と認めざるを得ない。
「……」
「そんな暗い顔するんじゃねえよ。ほら、早くどっかに入らねえと、本当に見つかっちまうぞ」
そんな脅し文句に背中を押されて、私は寂れた宿屋の戸を潜った。
ぼんやりと灯された部屋から、外を眺めるけれど、見えるのはこの宿よりも背の高い建物の壁や、閉ざされた窓ばかりだった。隙間風の吹き込む部屋を見回し、一つ溜息を吐く。
「疲れた……」
「そうだな」
「あなたは何もしていない」
「あのなあ……」
呆れた声が返ってきたかと思うと、突然私の左半分の貌が動き始めた。
「お前の躰が俺の躰なんだ。お前が疲れれば、同じだけ俺も疲れるんだ。……これ、前も言ったんだけどな」
「そうだっけ?」
「全く……。ま、意識は共有してねえから、お互いの考えていることはわかんねえか……」
ザザは呆れかえったのか、大きな溜息を吐いて黙りこくった。
私はそれには構わず、クロークや他の身に着けているものの一切を脱ぎ去った。吹き込む隙間風が素肌を撫でていく。心地よい感覚に目を瞑り、しばらくその感触に浸る。
べとついていた汗が引いていき、肌がさらさらと風を受け流していく。
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