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楽しそうにあれこれ考えていた彼が、急に真剣な瞳をこちらに向けた。 「そんなに色々考えてくれて、ありがとな」 そう言って、ぽんぽんとまた頭を撫でられた。 この人の前では、すべてをさらしてもいいのかもしれない。なんでも明るく変換してくれる彼の前では、私の小さな悩みは、ほんとうに些細なものなのだ。口に出した方が、ずっと楽になれるのかもしれない。 「あたしこそ、ありがとう。亮と居たら、すこしは素直になれるかもしれない」 本当は素直な自分でいたかった、そんな思いを乗せて。 すると、ふと思い立ったように亮が「あ」と漏らした。私が小首を傾げると、 「半分にしよ。由宇は口癖みたいに“ごめん”って言うから、せめてその半分を“ありがとう”にしてみるの、良くない?」 そんなことを言った。途端に、嬉しさが込み上げる。 「うん、やってみる」 「本当に謝るときはあるだろうけど、意外と、“ごめん”と“ありがとう”の使いどきは近いからなぁ。死ぬまでの間に“ありがとう”の方が多くなったら、たぶん、それって幸せなことだと思うんだよね」 さらっとプロポーズをされた気になって思わず鼓動が跳ねたが、どうやらそんな深い意味はなさそうだ。あるいは、深く考える前から一緒に居ることが当たり前だと思ってくれてるのかもしれない。そんな妄想ともつかないことを一人で考えていたことに気付いて、なんだか恥ずかしくなった。 「そういえば、ベッド」 ひとしきり話も終わって部屋でのんびり過ごしていたとき、不意に思いつく。 「うちのもやっぱり大きいのにする?本当は、広い方が好きなんでしょ?」 今日、亮がうちに来たのは、彼のくれた物たちが並ぶ部屋が見たかっただけだろうし、彼の喜ぶことを私もしたいと思ったからだった。 「えー、言ったじゃん。由宇と寝るときは、狭い方がいいって」 「そうなの?」 「くっついて寝ないと落ちちゃうと思えば、くっつかざるを得ないだろ?」 そんな恥ずかしいことを平気で言える彼に、私はいつだって振り回される。でも、少しだけ。 「そんな理由なんかなくても、亮と寝るときはくっついて寝るよ。離れてたら淋しいじゃん」 素直になることを教えてもらったから、少しずつでも口に出していこう。そんな自分の中の一歩とは裏腹に、目の前ではなぜかもがくようにじたばたする彼がいたのだった。
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