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仕事をして、帰って、食べられればいい程度の夕飯を作る。そんな毎日のルーティンも、それでも週末の楽しみを思えば早いものだった。 「おー、俺があげた本、ちゃんと並べてくれたんだ」 早朝からやってきた彼は、満足げにカラーボックスを見た。 「うん。自分で買った本は読んだらすぐに売っちゃうけど、亮からもらったやつはね」 付き合う前、読書が趣味だというのがきっかけで、私たちはよく話すようになった。人当たりがよく、静かに本を読むよりも外で遊ぶ方が好きそうな雰囲気の彼のギャップにやられてしまったのだろう。いつだって、惚れた方の負けなのだ。 私の言葉に機嫌を良くしたように彼は振り返った。 「たまには俺にも、由宇が面白かった本読ませてよ。由宇がなにを好きなのか知りたいから」 面白かった本の話はよくするのだから、タイトルは知っているはずなのに。わざわざこんなことを言ってくれるその一つ一つが嬉しかった。二人しかいない部屋で、こうして名前を呼んでくれることも。 「今度はちゃんと取っておくね」 可愛げのない返答しかできない自分が、どうにも嫌になる。 「由宇」 彼がゆっくりとベッドに腰を掛けて、私の名を呼ぶ。見ると、おいでと訴えるようにこちらに手を差し出していた。おずおずと近付くと、身体を反転させられて後ろから彼に抱きしめられた。 「え、どうしたの、急に」 「んー、今日は由宇の話を聞こうと思って」 「あたしの話?」 言われたことがよく分からずに首を傾げる。 「由宇さ、なんか俺に思ってることあるんだろ?たぶんだけど」 責めるでもない声音が、吐息とともに耳元で響いた。瞬間、胸がはねる。付き合って、一度として素直な言葉を言えなかった私の心の声を、彼は感じていたのかもしれない。そう思っただけで、小さな恐怖がむくむくと胸の中で大きくなっていく。 黙ったままの私の顔を、彼が気遣わしげにのぞき込んだ。 「責めてるんじゃなくて、知りたいんだ。由宇がたまに不安そうな顔してるのは、見てたら分かるからさ」
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