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何でもお見通しみたいなその口調が、やっぱり女慣れしているように映る。ためらいながらも、私は言葉を探していった。
「…あたしはあんまり男の人に慣れてないから…亮が優しいのも気遣いができるのも、キザなこと言えるのも、全部、経験値の違いなんだなって思って」
彼はその言葉を、ただ黙って聞いていた。否定も肯定もしないその反応に、恐怖がまた一つ、心に積もった。
「いつだってどこへでも行けて、何にも縛られないようにしてたのに、亮からもらった本とかDVDとか、映画の半券一つにしても捨てられなくて。亮には普通のことなのかもしれないことが、あたしにとっては何より大きくて。…馬鹿みたいだなって思ってたの」
そこまで言うと、次に言うことが見つからなくなってしまった。遊ばれているんじゃないか、と浮かんだ言葉が、声に出すには恐ろし過ぎて。私はいつだって、本当に言うべきことを言い切れないのだ。
いつの間にか俯いてしまっていた私を、彼は抱き上げるようにして隣に座らせた。驚いて彼の方を見ると、その瞳は優しく細められていた。
「遊ばれてる、って思ってる?」
「え…」
思っていたことを直球で言い当てられて息を飲んだ。うん、なんて言えるはずもない。
「由宇、よく思い出してほしいんだけど、俺はずっと由宇のことを知りたいって伝えてたつもりだったんだ。由宇が好きな本、由宇が考えてること、由宇が不安なこと。…長く、できればずっと由宇と居たいから、由宇が悲しむことはしたくないし、由宇が喜ぶことをしたいと思ってる。頭を撫でられるの、好きだろ?」
「…うん」
「名前を呼ばれるのも好きだよな」
「うん」
「本はお互い読むけど、ジャンルは同じでも好きな作家は結構ちがう。だけど、由宇が好きだって知ってから俺も読むようになった本はいっぱいあるんだ」
「え…」
初めて知ったことだった。そうだ。言われてみれば最近は、私の好きな作家の本の話題を振ってくれることが増えていた。
私よりも饒舌に心を揺さぶるその声が、不安とともにいつも私に温かいものをくれていたのは分かっていた。
「でも」
続ける彼の声が、少しトーンを抑えたのが分かった。
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