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「由宇が好きなことを知ってそれをする度に、嬉しそうな顔しながらどこか不安そうにする意味が分からなかった」
そこまで言うと、小さく息を吐く音が聞こえた。
「女慣れなんかしてない。由宇が好きだから、ずっと見てただけだよ」
気後れするのは、彼がすこしばかり歳が上で、気配りが上手すぎるせいだった。何でもかんでも平均的で、偏屈な私とはちがう生き物のようだと思っていたから。
「可愛げのないことしか言えない。特別なものも何一つなくて、亮が私のどこを好きなのか全然分からないの。だから、いつ居なくなっちゃうんだろうって、ずっと不安だった」
ぼや、と視界が歪む。鼻筋がツーンとして、胸が苦しくて。この苦しい思いを口にするのは、怖くて怖くて仕方がなかった。
どうしてこの人は、こんなにも欲しい言葉が分かるんだろう。年齢なんかじゃない。私よりも遥かに大人な彼が、私はきっと羨ましかったのだ。そんな単純なことに、今更ながらに気付く。
「充分、可愛かったけどな。さっき言ってくれたことにしても」
じゅーぶん、とやけに強調して亮が言った。え、と顔を上げる私に、彼は微笑む。
「俺があげたものが、何より大きいなんて。可愛すぎるだろ、どう考えても」
茶化してでもいるような口調で言われて、どっと顔が熱くなる。一瞬目を伏せたが、それ以上に幸せそうな彼の顔を見ていたら、こちらまで嬉しくなってしまった。
「居なくなんてならない。由宇が嫌がらないなら、俺はいつだって由宇と居たいよ。それに、好きな女が俺色に染まっていくなんて、男冥利に尽きるってもんだぞ?」
無邪気なくらいに笑う彼は、いつになく幼く見えた。あぁ、だから彼は私の部屋に来たかったのか、そこで気付く。彼の買ってくれたカラーボックスに、彼からもらった物が並ぶこの光景が見たかったのかもしれない。何もなかった部屋が、彼のもので彩られていくこの景色が。
「なんか、ごめん。勝手に疑って、勝手に不安になってた」
いつになく、素直な言葉を口にした。けれど、返ってきたのは予想外の反応だった。
「そこは、“聞いてくれてありがとう”がいいな」
「あ…」
「“好きになってくれてありがとう”、でもいいけどな。あとは…、いや、由宇」
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