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言葉には力がある。一瞬でひとを、笑顔にしたり。一瞬で涙を流させたり。その一粒一粒を拾い上げること、大切にすることは、少しも簡単なことなんかじゃなくて。自分の言葉にさえ振り回されるのは、私が弱いからなんだろうか。 心の声を口にすると、途端にそれに引きずり込まれてしまうときがある。ほんの少しの引っ掛かりも口になんて出したらいけない。それはいとも容易く大きな闇となって、私を深い森の中に誘い込んで離してはくれなくなるのだ。 だから私は、今日もだいじな言葉を飲み込んで、どうでもいいことばかりを吐き出していく。 「…亮、うち寄ってく?」 「あー、今日は帰って休むかな。明日、朝早いんだ」 「ごめんね、買い物付き合ってもらっちゃって」 車を持たない私は、どこへ行くにも彼にお願いして週末に出掛けることが多い。 この人は、いつまで私といてくれるのだろうか。時折、わたしの心を蝕むものは、どうしてか彼には少しも伝わらない。 「ちがうだろ」 「え?」 隣りで、こちらにチラッとだけ視線を移して彼が言う。その声は、なぜか歌を口ずさんででもいるように聞こえた。 「そういう時は、“ありがとう”って言うんだって、前にも教えただろ?」 「そっか、ごめん」 「ほら」 彼がクスッと笑うのが聞こえる。こちらもつい、つられて笑ってしまった。 彼がどうして私なんかを選んでくれたのか、未だに分からない。どこにでもいるような顔、平均的な身長に無難な服装。どこを取っても、私らしいものを何一つ持っていない気がしていた。自信を無くすほどひどい風貌をしているとも思わない。ただ、なぜ。 「今日はありがとう。カラーボックス、ずっと欲しかったから」 収納の少ない私の部屋は、物をあまり置かないようにするには丁度良かった。いつだって、どこへでも行かれる。物に縛られるのを好まない、わたし色の部屋。けれど彼ができて、少しずつ物が増えるようになったのに気付いて、前々から、“一つくらい棚でも置いたら?”と提案してくれていた彼。悩みに悩んだ末に、買いに出たのが今日だった。
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