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向けた拒否する言葉。それとは裏腹に腕にすがる小さな掌。言動の矛盾に彼も焦りの色を隠せない。 涙でぐしゃぐしゃの顔。まるで何も映していないかのような空虚な瞳。彼女の体の内側は、迫り来る恐怖に対して警鐘を鳴らしている。 そうそれは、刻一刻と迫っていた。ずるりずるりとこちら側へ。 クル、くる、来ル────! 「ううっううああぁッ。だれっ?なにっ!?やめて、やめてやめてやめてぇ!」 突然激しさを増した彼女の呻き。青年が落ち着かせようとしゃがみこみ、彼女の震える肩を掴んだ。 「っ!!!」 ビクリと跳ねた彼女の体は突然硬直した。 『あーア。…………コレ以上は……待テナイ。許セナイ。許セナイ。許セナイ。同ジにナッテモ、ラオウ。お前……ノ為ニ。私ノ為ニ……』 「や…………め、て」 そこで彼女は思いだす。その光景を。 開いた片隅の記憶がものすごい速さでフラッシュバックする。それはたったの一瞬で、そして世界が闇に包まれた。 ────── ─────────…… 開けていたはずの瞳は知らぬ間に閉じられていた。暗闇だということにやっと気付き、彼女は瞼を上げる動作をする。 どろり。最初に感じたのは生温かい感触。 ゆっくりと開いた瞳に映るのは、広がる真っ赤な景色。 どさり── 足元に落ちる、なにか。見下ろす自分の姿はおびただしい赤に濡れている。彼に着せてもらったばかりの白かったはずの衣も同じ色。 手に握った鈍く光る何かが目に映る。そこから肘まで全てが先ほどの生温かい赤に染まっている。 彼女はもう震えてはいない。 小さく、くつくつと笑っていた。 「あーあ。だから言ったんだよ。だめだって……。信用しても、頼りにしても、何度だってこうなるよ。結果は同じ。だって……お前のそばに居られるのは、お前の半分、私だけなんだから……!」 涙の跡がまだ残る瞳は、ぞっとする程美しく赤く光る。おぞましく、嫉妬と憎悪に満ちた狂気の笑みを湛えて。 まだ外は激しい嵐だった。 .
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