第5章 芽生えの国の王太子 3

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セレの父親、オーリシュラウトは海辺に近い離宮にいた。 遠浅の海は透明な水が静かに波打ち、美しかった。 狩りに使う為に造られたセレの離宮とは違い、こちらは完全に休養の場所だ。 オーリも心臓が弱かった。 若い内から胸の圧迫感や不正脈は感じていたが、日常生活に支障をきたす程ではなかった。 しかし、60歳を目前にして発作を起こしてからは王位を退く事を考え始め、昨年、息子のヤールに位を譲った。 それからはこの海の見える離宮でのんびりと過ごしている。 落ち着ける時間が出来ると、以前よりもセレの事を思い出す様になった。 …あの子は幸せだったのだろうか… セレは物心がつく前に王宮から離された。 生まれつき心臓に異常があったせいで王位継承者として認められなかった。 オーリよりもずっと症状は重く、成人を迎えられないだろうと言われていた。 …私に似てしまったからだ… セレに申し訳ない、とずっと思っている。 父親らしい事もろくにできなかった。 セレが2才になる頃、初めてオーリは森の離宮に行った。 「お父上ですよ。」 と侍女が紹介しても、セレは見知らぬオーリを警戒してなかなか近寄らなかった。
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