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当然だ。生後の数週間を一緒に過ごしただけなのだから。
そんな事もあろうかと、オーリはプレゼントを用意していた。
ゼンマイ仕掛けで動く馬のおもちゃだ。セレは動く物が好きだとヴァシュロークから聞いていた。
ゼンマイを巻いて床に置くと、リズミカルに馬の脚が動いてカタカタと歩いた。
「どうだ?セレ、面白いだろう?」
セレは興味津々で近づいて来た。
「お前もやってごらん。」
セレの小さな手を取り、一緒にゼンマイを巻いた。
また動き出したおもちゃを見た時、やっとセレが笑顔になった。
…可愛かった…
自分の子供とはこんなに愛おしく感じるものか…
初めて抱き上げた時の幸福感は今でも忘れられない。
この子の一生はおそらく人よりも短い。そしてかなり制約を受ける。その中で、少しでも多くの楽しみ、喜びを感じさせてやりたい。
オーリはそう思った。
だが、その頃は国内に不穏な動きがあり、自然災害も頻発した為、なかなか身体が空かなかった。
セレの誕生日にすら顔を出せない事もあった。
父と子の会話などほとんど出来ない内に、セレは命を終えてしまった。
オーリがセレの笑顔を最後に見たのは成人の儀の時だ。
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