第1章

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しかし、ケーキを買うために外出する必要があるから服だけは着なくてはならない。 お取り寄せだと、送料が別個かかるし…。 仕方なく服を買うため、近所の洋服店にセール品の洋服を探しに出かけた。 夏物セールはサイズを問わず戦争状態だった。 Tシャツばかりのコーナーだと思っていたが、なぜか主婦の群れだ。 Tシャツなんて着れる時期も限られているのに…みんな必死である。 「これは私のよっ!」 「あんたこそ譲りなさいよ!」 一枚600円ぐらいのTシャツを主婦がワゴンから奪いあっている。 私も参加するしかなさそうだ…黙って待っていたら一枚も残らない。 「ぶよぉごん!」 だが、運動不足の私は主婦パワーに弾き飛ばされた。 自分でも、何でこんな悲鳴が出たのか分からないが。 しかし、健闘虚しくTシャツは主婦に奪われてしまった。 見るからに痩せすぎた主婦が4Lの洋服を持っていった気がするが、私の見間違いだろうか…もしかしたら家族の分なのか。 「…。」 一枚残っていたが…広げてみた瞬間、私は愕然する。 『番狂わせの怪談』というロゴが書かれた、山猫と通信教育について熱弁を振るった文章つきのTシャツだった。 とても人前で着られる服ではない…しかし、服は着ねばならない。 私はこれ以降、いつもの食事もチーズケーキも半分に済ませることにした。 運動はさすがにしたくなかった…ダイエットの基本のランニングなどこんな服を着てたら出来はしない。 とはいえ、ダイエットの苦痛はとりあえず半端がない。 食欲が後から後から沸いてくる…常に自分が食べないと意識しなくてはならない。 その苦痛を忘れるために、ストレッチは有効だと悟った。 だが、Tシャツに負けるわけにはいかない。 私は人間の尊厳をもって、自らの体重に立ち向かった。
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