聞いた話Vol.1

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 今から二十と数年前。当時カーナビなんて普及しておらず、どこかに旅行に行くのにも辞書のような分厚い地図を持ち歩く必要があった。  この日不思議な体験をした彼女らは、山陰地方の真新しい地図を膝に乗せ、慣れない山奥の道を運転していた。  土地は出雲。どこに行きたくて車を走らせていたかなんて、当に忘れてしまっている。  見慣れない田舎の風景は、どれだけ道を進んでもどこも同じに見える。違うのは、徐々に夜の闇に染まっていくことだけ。助手席に乗る女性が必死に手元の地図と睨めっこするも、とうとうバタンと勢いよく閉じて後部座席に投げた。  どうやら道に迷ったらしい。  すっかり夜の帳もおり、2人はふとお腹が空いたことに気が付く。周りに見えるのは、山、木、ガードレール。時々、民家と川。他には何もない。それでも車を走らせること数分、明らかに民家とは異なる灯りが見えてきた。  灯りの正体はどうやら小さな食堂のようだ。まるで彼女達を待っていたかのように、山道にポツンと建っていた。隣にはおそらく廃業しているだろう、光を放たないネオン管がやけに目につくパチンコ屋がある。  2人は車をパチンコ屋の駐車場に停めて、これ幸いと食堂へと入っていった。
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