聞いた話Vol.1

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 山奥にひっそりと建っている食堂にしては珍しくモダンな雰囲気の内装。思ったより清潔感があり、彼女達が手動の扉を開けて入店するとチリンチリンと心地よい鈴の音が響いた。  奥から初老くらいのエプロン姿の女性が出てきて迎えてくれる。食事も美味しく、思いもよらず出会えた隠れ家のような食堂に、彼女達はお腹も心も満たされて再び車に乗り込んだ。  食堂を後にして、満腹感からか睡魔に襲われる。何の変哲もない、悪く言えば代わり映えのない田舎道。自分たちの現在地も分からず、地図を見ることすら諦めている。彼女達の運命を決める分かれ道がそれなりにあったの事が、唯一彼女達を睡魔から救ってくれた。  当てもなく、分かれ道に遭遇する度に勘だけを便りに道を選んでいく。そうして車を走らせていくと、彼女達は目に飛び込んできた建物に愕然とした。  ネオンの灯っていない廃墟のパチンコ屋と、先程彼女達が立ち寄った食堂が目の前にあったのだ。何も考えずに選んできた道はいつしか方角までも狂わせ、どうやら元の道にまで戻されていたようだ。  まだ営業しているのか、暗い山奥に爛々として目立つ食堂を横目に過ぎ去り、まだ記憶に新しい1つ目の分かれ道を先程とは異なる方を選んで進んでいく。  そちらの道もまた、数分おきに分かれ道が現れる。すっかり油断していた彼女達は、迷子であることを心の何処かで楽しむかのように道を決めていった。幼き日のちょっとした冒険のような感覚は、彼女達の眠気をとうに覚ましていた。
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