聞いた話Vol.1

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 もういくつ分かれ道を通ってきただろうか。最後に遭遇した分かれ道は確かに既視感があった。でも、田舎だから似たような景色が多すぎて、アレが見えてくるまでその既視感を気のせいと思い込んでいた。  再び見えてきたのは例のパチンコ屋と食堂。時刻はもう日付を超える手前である。なのに、客も来ないであろうその食堂にはまだ灯りがあった。少し怖くなって彼女達は無意識に食堂を直視することを避けた。  時速50キロ程だろうか、なるべく早めに食堂の横を通り過ぎようとしたところで何か視線を感じて背中がゾクリと粟だった。反射的にアクセルを踏むと、車は速度を上げて食堂から遠ざかる。  何度か見た、食堂から最初の分かれ道。伸びる道は2本だけ。どちらも1度は通った道。本来なら車を停めて慎重に行き先を決めるべきところ、可能な限り先程の食堂から離れたいという思いに駆られて1度目に選んだ道へと入っていく。  次に見えてきた分かれ道も当然1度見ているはず。それなのに、分かれ道をもう幾つも選んできたせいなのか、最初に通ったときにどちらを選んだのか忘れてしまっている。まるでまた新しい分かれ道に差し掛かったかのような錯覚に襲われた。
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