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どんな道を選んで来たか、ほとんど記憶に無い。しかし彼女達にようやく希望が見えた。目の前に現れたのは山を貫くように空いた1本のトンネル。長い悪夢の出口のように思えた。
ようやくここから出られる。どこを目指してこんな所に迷い込んだかとっくに忘れていた彼女達は、解放されたい一心でトンネルへと飛び込んだ。
ひたすら真っ直ぐのトンネルを進む。当たり前だが、トンネル内に分かれ道などあるわけもなく、約束された出口へとただ向かっていく。次第にアクセルを踏む右足に力がこもっていく。
ようやくトンネルの出口が見えてきた。すると、助手席に座っていた女性が急に叫ぶ。その声を合図に、運転していた女性はアクセルから足を離し、思いっきりブレーキを踏んだ。
すんでのところで車が止まる。車のボンネットはトンネルの出口から少し顔を出していた。パラパラと音を立てて小石が垂直に落下していく。
トンネルの出口は崖になっていた。
気付かなければ彼女達は今頃崖下に向けて勢いよく落下していたことだろう。間一髪、車は崖すれすれで止まったのだ。あまりのことに心臓が暴れ狂うほど脈を打ち、とりあえず無事であることを実感した彼女達は互いに目を合わせてホッと一息つく。
その時、運転席と助手席の間に突然、後部座席から2人を割くように人間の首から上だけが現れた。
『落ちればよかったのに!』
悔しそうな、恨めしそうな表情で運転席と助手席をそれぞれ睨んだ後、そう吐き捨てて再び後部座席の方へと姿を消した。
突然現れたその姿は間違いなく、あの食堂にいたお婆さんだった……
―完―
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