ROOM.1 ジャワ・ハイツ203号室(3)

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 千曲は「人格はあれでもやる事をきっちりこなせば、消防署長も夢じゃない」という道理を実践している男だ。仕事ぶりは敏腕で、決断は恐ろしく早い。  上亮は目つきを鋭くした。 「俺を現場から外す気ですか?」    痛い目なんてものではない。上亮にとっては死刑にも近い処分だ。  消防学校を出て十年。経験は十分。身体能力もピークを維持している。大きな火災も何度か経験し、無事仲間と生還した。まさに脂が乗り始めた時期。ここでバックヤード部隊に飛ばされるなんてたまったもんじゃない。 「署長。俺は、現場でしか生きない人間です。そのために消防にいるような奴だ。使い所を見誤んないでください」  凛々しい若武者のような顔だ。自分の命を懸けて働いてきた男だけが見せることができる面持ちだ。普通の上司なら、部下の熱い台詞を汲む取るところだろう。  だが、千曲は一筋縄ではいかない。 「えー?何様だと思ってんの?」  至って上機嫌な声のまま、上亮の覚悟をバッサリと切った。 「人事は僕たちの仕事。なえちゃんをどうするかは僕たちが決めます。あなた二言目には現場現場って言うけど、それ現場以外何も見えてない事の裏返しよ。僕と話をするには二十年早いね」     
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