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千曲の顔から笑顔が消える。被せるように構内アナウンスの音が入った。
「一生モノのトラウマよ」
通報だ。街のどこかで、誰かが助けを待っている。
「〝要救助者を助けることができなかった〟…〝目の前で炎に焼かれ死ぬ人を見てしまった〟」
行かなくてはならない。昨日、何が起ころうと。一昨日、誰を失おうと。
「なえちゃん」
上亮は署長室のある本館から外に出て車庫の方へ向かおうとしている。
底冷えした曇天の下を歩く消防士の姿を窓越しに見つめ、千曲はぽつりと呟いた。
「自分でしか自分を許せないなら、早くなんとかしなさい。そうじゃないとあなた、「そこにしか居場所がない」って言ってた現場で死ぬことになるわよ」
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