ROOM.1 ジャワ・ハイツ203号室(4)

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  ROOM.1 ジャワ・ハイツ203号室(4)

 上亮がポンプ車の脇で黙々と腕立て伏せに励んでいると、二人の男が声をかけてきた。 「うわ、なっさんソレ…」 「おいおい。上亮、またやったのか?」  ラメが眩しい三角のパーティーハット、頬の辺りにキスマーク型のシール。千曲署長の唇を模して造られたと専ら噂の品だ。とどめに選挙候補者のような派手なタスキをかけている。  記されている文字はこうだ。〝猛烈反省中〟。  上亮が署長室を去る際、持って行けと言われた「署長特製猛反セット」の内訳である。  体が資本な消防士に、怪我や事故につながりかねない罰を課すのはご法度だ。よって用意されたのがこの〝特製猛反セット〟である。おかげで、夕暮消防署内の遅刻や居眠りはぐっと減っている。 「ウッス」  この素っ頓狂な格好で一日過ごすことに何の抵抗も感じない男を除いた場合、の話だったが。 「懸垂中にその格好見ると手元が狂いそうになるんだよなぁ」 「米さんは笑いの沸点が低すぎなんスよ」  上亮に米さんと呼ばれた男の名は、米津聡。夕暮消防署第二隊、通称笹子隊のポンプ係であり、上亮の真上の先輩にあたる男だ。     
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