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爽やかという言葉が似合う顔だ。仕事ができ、愛想も良く、金銭感覚も女の趣味もまとも。何より人体でもっとも鍛えるのが難しいとされている広背筋を攻略した男として有名である。
あいつの背中はやばい。米津にだったら女取られても怒らないと呟く隊員は少なくない。
「さっきの通報はガス漏れだ。応援要請は来てない」
夕暮消防署では活動できる隊を常に二重にしながら、五つの消火隊がシフトを組む。上亮が所属する第二隊は、本日は昼のスレイブシフトに入っている。出動要請が出た場合、マスターシフトを任命された隊が出動し、その合間に出動要請が来た時のみスレイブシフトが対応するのだ。
なので今、上亮たちは待機中だ。ぴかぴかと光る真っ赤な車の脇には隊員のために用意されたトレーニングセットが置いてある。あと2、3時間もすれば夜シフト隊がやってくるという時間だった。
「何セット目だ?」
「2セット」
迷うことなく、米津は「付き合うよ」と応える。コンクリの床に敷かれた薄いマットの上に、上亮よりも一回り大柄な体を投げ出した。軽々と自分の体を上げ下げする。
「アザッス」
「当然だろ?チームなんだから」
細めの眉を吊り上げてニッと笑う。先輩の鑑のような口ぶりだ。今更百回や二百回の腕立てなど苦ではないというのも一因だろうが。
「げ、」
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