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困ってしまうのは、米津とともに来たもう一人の男だった。慌てて視線を来た道に泳がせる。
こちらは上亮の後輩に当たった。名前は芦谷直樹という。内勤副署長、流山ほど貧相ではないがそこら辺の大学生と変わらない見た目をしていた。
「あ~、俺。操作盤の点検しようかなぁ~」
白々しい声に上亮は意地悪く口の端を歪ませた。
「逃げんなよ芦谷、俺たちチームだろ?」
「だとしてもポジションが違いますから!!」
芦谷は米津や上亮を火災現場まで連れて行く運転手だ。機関員と呼ばれている。
機関員は消防士と違い、炎と直接戦うことはない。代わりに1秒でも早く現場にたどりつくため、町中の消火栓や道路状況の知識、そして大型車の運転技術を求められていた。
力の入れるところが違う。そう、芦谷は主張するが上亮は一蹴した。
「馬鹿。筋トレが無駄になることなんて何も無いんだよ」
「直樹、トレーニングはいいぞ。人生の七割五分の悩みは筋トレで解決する」
先輩二人の顔に迷いはない。芦谷は忌々しく「信者共め…」と吐き捨てた。
「入信しろ。そしたら分かる」
「絶対嫌ですよ。てか何ですか七割五分って微妙な数字。残りの二割五分はどうすんですか?」
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