ROOM.1 ジャワ・ハイツ203号室(4)

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 芦谷はバネでも仕込まれてるんじゃないかという勢いで腹筋をこなす二人に尋ねる。息を切らすそぶりも見せず、米津は白い歯を見せた。 「そこは個人に紐づくかな。俺は嫁さん。こいつはバイク」  上亮はニコリともせず頷く。頼まれてもいないのに、ひねり腹筋だ。  米津の言葉にシナプスを刺激されたのか。芦谷は「思い出した!」と声を爆ぜさせた。 「なっさん!この前の合コンなんで途中で帰ったんですか?」 「あー、あれか。車検忘れてたし、ゴリラしかいなかったから」 「こっちが全力で選りすぐったレディをゴリラ呼びとか喧嘩売ってんですか!?」  「余計な世話なんだよ」 「俺はなっさんを心配してやってるんです!」  昨年、米津がめでたく結婚し、隊の独身三人衆を一抜けした。それからというもの芦谷は、無愛想で口を開けば下ネタばかりの先輩に人類の恋人を持たせようと躍起になっている。…のだが、上亮にその気がまるでない。バイクが恋人と言わんばかりの反応だ。 「なっさんの女性遍歴ってどうなってるんですか…?」 「語るほどじゃねーよ。おい、口じゃなくて体動かせ」  上亮はブーツのまま軽く蹴りを入れる。女々しく叫んでから、芦谷は悔し紛れに「俺は絶対結婚できますけどね」とジャブを打ち返す。黙る気はなかった。 「なっさんこのままだとマジで隼と結婚ですよ?」 「…別にいいだろ」     
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