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調査結果は事故再発防止の情報となる。そしてもう一つ、火災現場検分は火事に遭った人たちにとって重要な要素を含んでいた。火事による建物の損害を証明する「不動産り災証明」の発行だ。消防署長の名が記される。
この証明書の程度によって、火災保険の適用額は大きく変わる。「済んだことだから」と軽い気持ちで鎮火した現場に入ることは出来ない。
死者が出ていれば尚更だ。上亮は唇を噛みしめた。
「でも変ですね?昨日もうちの火災調査課がマスターシフトや派出所の人と現場見たんでしょ?何でまた行くんですか?」
芦谷の質問に、米津は一瞬目を細める。嘘がつけない性格だった。
「警察の要請って言えばいい…かな?」
言葉を選ぶように、途切れ途切れに補足する。
「検分は確かに一回行われたんだけど…うまくいかなかったんだよ。混乱した現場だったし。火災調査課は事故って判断したんだけど、警察が却下したんだ。もう少し話を聞きたいから、スレイブシフトだったうちも来いって」
「………なんスかそれ」
遠雷の音に似た声が漏れた。上亮だ。
一番仲の良い先輩にも怒気を隠せずにいた。
「セオリーばかりの内勤だけじゃなくて、大工町派出所の人たちも行ったんですよね?実際に俺らと一緒に現場に立った人間の証言が「信じられない」ってどういうことなんスか?」
紡ぐ言葉には現場に対する圧倒的な信頼がある。上亮は畳み掛けた。
「こっちはプロだ。寝言なら寝て言え」
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