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「すごく頭がいい人らしい」
「ナシだな。チェンジで」
もちろん上亮は真顔だ。こんな風に話の腰を折られると米津が再起不能になることを知っていてやるのだからタチが悪い。
代わりに芦谷が眉を吊り上げる。
「ちょっと!」
「俺頭いいやつ嫌い。あとカタカナ連発する奴も。何言ってるか分かんねぇ」
米津は「やめてくれ~、腹筋から死ぬ~」とコンクリの床を転がる。息を整えるのに二十秒ほどかかった。
「とにかく、前にいた港区警察署だとどんな難事件も担当すれば必ず解決させてたんだって…。それでついた通り名が…」
「通り名?サスペンスドラマの見過ぎじゃないですか?」
ぷぷぷと芦谷が吹き出す。
米津は、腕を組んで唸った。自分でも信じられないことを口にしている、そんな顔をしていた。
「〝火事場の奇人〟だそうだ…」
「…。…」
車庫のそばで羽を休めていたカラスが、けたたましい羽音ともに飛んでいく。
もう、誰もトレーニングなんてしていなかった。
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