ROOM.1 ジャワ・ハイツ203号室(6)

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  ROOM.1 ジャワ・ハイツ203号室(6)

 大工町は夕暮市の南に位置する。戦後にたった小さな個人商店がひしめき合い、アパートや民家も合わせるように小さく作られているエリアだ。細い道が走り、一方通行が乱立する。自転車や原付バイクが主な住民の足だ。  大型車に分類される消防車両はこの町の奥に入ることができない。一度火事が起きたれば、隊員が30キロあるポンプを担いで進むしかない。  日は、とっぷりと暮れている。あの時と同じだ。  米津は隣の上亮に声をかけた。 「大丈夫か?」 「ウッス」  返事は気丈だが、顔色は全然よく無い。さらに何か言おうと米津が口を開いたところで、名前を呼ばれた。 「米津さーん!」  金管楽器で言えばホルン、弦楽器で言えばチェロといった感だ。太く、奥行きがある。  音で例えるなら「ずんぐりちんまり」といったところか。支給されたジャケットの「YUGURE POLICE DP.」という文字もパツパツに伸びている。  秩父圭介。通称、秩父師匠。太っているわけではない。骨太なだけなのだ。それでも「チビ」とか「デブ」と蔑みを交えて呼びたくなるのは、この男の纏っている特上のいじめられっ子オーラのせいだった。 「こんばんはです!」     
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