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誰のことなのかはすぐに分かった。ちらと秩父の顔を見れば当たりのようで、松山のさらに後ろから拝むように手を合わせている。
上亮の顔は、周防や糸魚川の比にならないほど剣呑なものになる。冷静さを取り戻すこともできずに尋ねた。
「そいつはどこにいるんだ?」
「ーーー現場だ」
答えたのは松山ではなく周防だった。冷たい印象を与える切れ長の目に負けず、口から出る言葉も刺々しい。
初対面だというのにいきなり苛立ちをぶつけられ、上亮はますます顔をこわばらせる。場の空気にピリ、と緊張が走った。
「悪い。アンタに怒ってるわけじゃないんだ」
「自分は愛想がない」という自覚のあるのか、「気を悪くしたか?」と言葉でフォローする。大人な対応に、上亮は「いや、別に…」と口走った。
その反応に、今度は糸魚川がふっと笑った。強く引いたアイライナーに赤い口紅。人を寄せ付けないきつめの化粧をしている。様になっている分、凄みがあった。
「正確に言うと、あいつ、帰ってないの」
喋ると嫌味っぽい印象が強くなる。明らかに件の奇人への敵意がある。
最悪な空気だ。米津は居心地悪く微苦笑した。
「〝納得いかない〟の一言で現場に張り付いたままだ」
「食事も睡眠も一切ナシ。一緒に仕事してるこっちからすれば本っ当迷惑よ」
「おいおい、消防さんが見てるんだ。仲良くやってくれ」
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