ROOM.1 ジャワ・ハイツ203号室(6)

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 米津は固まったままの上亮の脇腹を突く。 「なんか…まじでヤバそうだな」 「…そっスね」  こんな場でなければ「いやいや盛ってるでしょ」と突っ込みたくなるような話だ。だが、これだけの沢山の人間が口を揃えている様を見ると、信じてしまう。  件の天才刑事は事件解決までは決して眠らず、食べ物も口にしない人物であると。周防は静かに断言した。 「あいつは火災調査を何にも分かっちゃいない」  糸魚川も頷く。口の動きはニタリ、という音が似合った。 「今頃、仮説を検証するとか言って現場に火をつけているかもしれないわね」  聞き捨てならない台詞だ。 「ふざけんな!!」  体は勝手に動き出す。 「上亮!!」  米津の制止の言葉はあっという間に後ろへと消えた。場所は嫌でも覚えている。ジャワ・ハイツ。夕暮市大工町三丁目にある木造アパートだ。両隣の建物はどちらも民家で、路地を抜けた先に下り線のバス停がある。  現場は逃げ遅れの搜索と、住民の避難指示がぶつかり、混乱した。老人ホームが近くにあり、誘導に時間がかかったのだ。  火の粉が雪のように降り注いでいた。  空は真っ赤に染まっていた。   ーー業火の中に、人が倒れていた。  思い出したくない。だが、忘れることも許せない。     
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